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『楊令伝』 と 『射鵰英雄伝』 = 北方大水滸 と 金庸


【 道楽のときどき日記 】 ~香港編~-『楊令伝』 と 『射鵰英雄伝』



( ※ 記事タイトルと本文に文字化けがある場合、【周】へん に つくりは【鳥】の字が入ります。鷲と同義です。『射【周鳥】英雄伝』となります )


(※※ 無駄に長いです。おヒマでない方と興味のない方はとばしてください)




先月まで、北方謙三の『楊令伝』を読んでいました。


中国で西遊記や三国志と並ぶ伝奇小説である『水滸伝』を北方先生が独特に書き直したのがいわゆる北方『水滸伝』で、その続編が『楊令伝』です。


これがまた長い物語で、『水滸伝』が全19巻、『楊令伝』が15巻という渾身の時代小説です。読書スピードの遅い私は、『水滸伝』に半年以上かけ、その後半から熱烈に読みだした勢いで『楊令伝』は3か月程度で読了しました。


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さて。『水滸伝』は108人の豪傑女傑好漢たちが宋という国を倒そうとする、いわば革命の物語。ここまでは中国の原典を叩き台にした時代小説でした。対して『楊令伝』は、その世継ぎ世代が活躍して国を作っていく物語で、もう完全に北方謙三の作り上げた物語です。北方さんはさらに、その続編の『岳飛伝』を執筆中だそうです。この完成を待てば、三部作で合わせて50冊になる見込み。これをその筋では『北方大水滸構想』と読んでいます。


私は2月に『楊令伝』までを読み終わった後、『岳飛伝』はその完成を待ってから文庫で一気読みするとして、次に何を読もうかと考えました。


北方さんの本をもう少し読んでみたいけど、『三国志』は『北方水滸』の熱が冷めたときに読みたい。でも、なぜか香港の本屋に他に北方作品は見当たらない。


ということで、中国で最も有名な作家・金庸の作品を読んでみることにしました。嫁の母上も愛読しているというので、話のタネになれば、という程度の期待で。



手に取ってみたのはこの記事のタイトルにもあります『射鵰英雄伝』(日本語版全5巻/徳間書店)。


さてもさても、さすが金庸というべきか、これがなかなか面白い。5巻もあったのに、3週間足らずで一気読みしてしまいました。中国では何度も映像化されていて、日本でも漫画化されているそうです。読み始めた時は、そんなこと知らなかったですけ。



主人公は朴訥で正直者、しかも不器用な青年なのですが、コツコツまじめに修練を重ねて天下の武人と渡り合うようになってゆく、成長の物語です。


そんな主人公の恋人はというと、お茶目で頭脳明晰かつ眉目秀麗な女の子。


中華社会でベストカップルの代名詞になっているぐらい、愛されるキャラ設定じゃないですか。


その他にも王子に道士に法師に薬師に毒師に乞食の頭領、老いてなお少年のような髭もじゃ白髪もじゃ爺さんなどなどと、天下の武侠が腕を競いあうのです。一方は義侠心厚い正義の味方、一方は絵に描いたような悪者たち。そんな稀なツワモノたちが偶然に東海の孤島に居合わせて謀略を巡らせたり、寒村の潰れた居酒屋にタマタマ大集結して乱闘になったりと、フィクションでしかありえない、というか物語だからこその山場修羅場の連続、手を変え品を変えの一難去ってまた一難。


そうかと思えばいかにも中国の武侠らしく、ひとっ飛びで二階建ての建物の屋根に飛び乗ったり瞑想(気功)で身体能力が飛躍的にアップしたり、家で大岩を投げたら屋根をぶち破って飛んで行ったりと、SF小説でもないのになんとも超絶な能力のバトルアクションが繰り広げられます。作者の金庸が武侠小説を書き出したのは中国の家庭にテレビが普及するよりだいぶ前だと思いますが、その頃からすでに、現代のカンフー映画で見るような空を飛んだり素手で大岩を砕いたりの格闘イメージがあったということですね。さすが、仙人のいる国です。


そんなこんなの天下第一を自任する数多の武侠が跳梁跋扈東奔西走上へ下への大騒ぎをしながら、チンギス・ハーンの天下統一の時代に関わったり関わらなかったりして物語が進んでいくわけです。そこには少なからず、執筆(及び文庫化に際しての修正)当時の独裁政権毛沢東に対する揶揄がこめられたりもしているのです。


さて。まあ、長くなりましたがここまでが前置きです。


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今回はそんな金庸『射鵰英雄伝』と北方『楊令伝』を比較してみたくて記事を書いています。作品の概要がわからないと読まれる方もわけがわからないので、前置きの作品紹介が長くなってしまいました。すみません。



さて。物語の舞台となっている時代は『楊令伝』の方がわずかに早く、北宋が滅亡して南宋が立ったのが1127年。その前後の激動の時代を描いています。『射鵰英雄伝』の方は、そこから70~80年経って蒙古のチンギス・ハーンが領土を東欧まで伸ばし南宋の国運も風前の灯、というこれまた激動の時代。後者では『楊令伝』続編の『岳飛伝』の岳飛将軍がひとつのキーワードになっていたり、主人公が『楊令伝』の中の梁山泊の豪傑郭盛の曾孫だったりと、繋がりは散見するのです。


『楊令伝』の戦いは国の興亡、『射鵰英雄伝』は武人の闘争という違いこそありますが、どちらも「強い漢」に魅力を発揮し、「正義とは何か」そして「強さとは何か」というようなところを突いています。まさに男の物語ですが、金庸の小説の方はロマンスが溢れている分、読者層も広いのでしょう。世界の中華圏で最も愛されている~と豪語しているだけのことはあります。嫁の母さえ愛読しているほどです。


どちらも素晴らしい作品ですが、私の好み的には、北方謙三の『大水滸』の方が合っています。どちらも流れるように進む物語にあっという間に引き込まれるのは同じですが、北方さんの方が、わざとらしさがないというか、人物の配置、出会い、戦の開戦にしろ、必然は必然、偶然は偶然としてリアリティがあります。



で、そのような二人の偉大な作家の間にある大きな違いのひとつ。それは、文体です。もっとも金庸の方は日本語訳なので訳者次第というところはありますが、それにしても北方『水滸伝』『楊令伝』と30冊以上をぶっ続けで読んでいた私には、金庸を読み始めた時にどうしようもない違和感がぬぐえませんでした。


というのも、北方謙三は登場人物の視点になりきって物語を進めていきます。しかも、チャプターごとに視点となる人物が変わって、その時その時で心情が深く掘り下げられたりして、感情移入することもしょっちゅうです。そういえば、京極夏彦の『百鬼夜行シリーズ』もそんな手法でした。


そして久しぶりに北方を離れて金庸『射鵰英雄伝』を読み始めてみたら、どうゆうわけかあちらの人の考えていることも、こちらの人の心の声も同時に聞こえてくるではありませんか。テレパシー能力者かサトリにでもなったみたいな軽い混乱が起きていました。まあ、すぐ慣れましたけど。私としてはやはり、登場人物視点で書き続けながら物語をダイナミックに描ける北方小説の方が好きですね。



まあ、私の好みのことはいいとして、もうひとつ興味深かったのは両作の中の『中国人』の定義でした。


北宋から南宋への勃興の時代であった『楊令伝』では、特に「中国人」という言葉が出てきたわけではないにしろ、「漢人」「漢民族」に強いこだわりがありました。誰もが北京(当時は燕京)界隈以南の広大な平原を漢民族の土地として守っていたのです。その肥沃な土地を狙う北の遼の国やその周辺の金や蒙古も、他民族があがいている中華の外縁国家という程度でした。


一方の『射鵰英雄伝』、北京(燕京)から長江までのいわゆる「漢民族の土地」は、北宋が滅んだ時点で女真族の金国に支配されていました。漢民族が暮らすのは長江より南の南宋国です。で、物語の主人公は漢民族ながら遠く北の蒙古で産まれ育つのですが、その蒙古人の会話で出てくる「中国」というのはどうやら漢人の南宋国ではなく、女真族の金国のことのようでした。


中華(中原)を制する者こそが「中国」。漢民族だろうが女真族だろうが、後の元の蒙古でも清の満州族でも「中国」は「中国」なのだということは歴史を見れば一目瞭然。なのはわかっているのですが、水滸伝時代で北宋、南宋、梁山泊の漢民族の国取り合戦せめぎあいを30冊以上も熱読していたすぐ後に、女真族の金が中国であるとつきつけられたら、なんだか儚い気持ちになってしまいました。あ、あれだけ争っても、所詮真ん中に陣取っている国が中国なんだ、、と。


現代でこそ中華人民共和国のマジョリティは漢民族であり、中原ならぬ政権を握っているのも漢民族ですが、何かの拍子でチベット族やウイグル族が政権を握ったりしたら、中国という国のアイデンティティもまたガラリと変わってしまうのでしょう。そう考えると、「国」というのもまた曖昧な概念ですね。下から上へ民意と税金があり、上から下へ政治がなされていれば「国」である、という程度の単純なものではないでしょうけれど。


ともあれ、『射鵰英雄伝』を読み終わったので続編の『神鵰剣侠』に移りたいと思います。次はいよいよ蒙古が南宋を覆す歴史の変わり目でしょう。もしかすると、フビライ・ハーンが元の国を建てるところまで行ってしまうかもしれません。フビライの父と義兄弟である『射鵰~』主人公はいったいどうするのでしょう。その子らの活躍と、新たな世代の武侠はどんな人たちか。


でも、辛いのはリアリティです。徳間書店刊行800円の文庫本が、香港の旭屋書店で購入すると100香港ドル≒1200円あまり。全5巻を揃えるのに6000円、さらにその続編『倚天屠龍記』も全5巻。本を読むのも、楽じゃないです。。



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コメント

1. こんにちわ~

どうもです!ブログ見ました!僕のブログにもコメントしていただけたら嬉しいです♪僕も更新頑張ります!たまに見にきてくださいね!読者申請してもらえると嬉しいです!

2. よーじさん初コメントです(*^_^*)

よーじさん初コメントです(*^_^*)チロルっていいます(⌒-⌒)...よーじさんのブログおもしろいです(●^□^●)たまにチェックしてたんだど、見てるだけなのもアレかな(笑)って思って今日はコメントしてみました=*^-^*=ぶっちゃけなんですけど、よーじさんのこと気になってます…よーじさんがよかったらでいいんですけど、アメンバー申請してもいいですか?メッセージの受信設定してないからメールしてもらえるとうれしいです(^∀^)メールまってますね(・∀・)

3. コメントします(^^)

初コメント書いて帰ります!検索からたどり着きました!!コメさせていただきます☆また訪問させて頂きます!僕は僕で、自分の音楽活動についてのブログを頑張っています!また記事を拝見させていただきます!お互い交流を深め合えたら嬉しいです!

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2012年から香港に住んでいます。お勤めもしていましたが、なんだかんだで主夫になりました。2児のパパをしています。バックパッカー時代のブログはこちら >> [[ My Book of Days ]].

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